大原奈緒子「糸口」at mhPROJECT_ノコギリ二
- rhythm.war*p
- 3月21日
- 読了時間: 8分
更新日:3月22日
大原奈緒子「糸口」展
2025年3月14日(金)– 5月25日(日)
一宮市・旧平松毛織工場「mhPROJECT_ノコギリ二」
現在、一宮市の旧平松毛織工場「mhPROJECT_ノコギリ二」にて、展覧会 「糸口」を開催しています。本展は、5月25日の最終日に向けて作品が完成へと近づいていく "work in progress" の形を取っており、制作のプロセスをご覧いただける展示となっています。時間とともに変化していく作品の姿をお楽しみいただければと思います。
また、3月16日に行われたギャラリートークでは、冷たい雨の中にもかかわらず足を運んでくださった皆様に、心より感謝申し上げます。自身の言葉で作品について語る機会はこれまであまりなく、皆様と対話できたことは貴重な経験となりました。一方で、うまく言葉にできなかったこともあり改めて振り返っています。その言葉にならなかった思いを、このブログで少しずつ綴っていけたらと思います。
展覧会「糸口」質問
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「糸口」のギャラリートークでは、ゲストスピーカーに上芝智裕さんをお迎えし、対話を繰り広げました。上芝さんとは、かつてrhythm.war*pの2階にギャラリースペースがあった頃、作家の作品を見に来てくださったことがご縁のはじまりです。2022年のグループ展「our code」の企画者であり、その辺りも踏まえながらお話ししました。
なぜ古着屋にギャラリーを併設したのか ————それはrhythm.war*pのコンセプトである「感覚すること」をテーマにした時空間 を軸にしているためです。アートを専門的に学んだわけでもなく、詳しいわけでもなかった当時の私は、アートといえば美術館や敷居の高そうなギャラリーで展示されるものという漠然としたイメージを持っており、どこか遠い存在に感じていました。年代や情報にとらわれず、その時の感覚に正直に選んでもらいたいという想いのある当店は、アートの力を借りることで、そのコンセプトをより深めるためにギャラリースペースを設けました。また、アートというものをもっと身近に感じたいという気持ちもあったと思います。
2015年、出産を機にギャラリーは閉廊しました。この時に構想したのがpost-vintageプロジェクトです。育児で突発的な休業などを考えると、ギャラリー運営は難しいと判断し閉廊したのですが、その時にアートを服に落とし込めないかと考えました。衣服をメディアとして、ホワイトキューブから抜け出したアート————post-vintageでは多様なアーティストとコラボレーションを行いディレクションしました。
コラボレーションシリーズは2020年で区切りをつけ、現在は自身が古着に着想した表現活動を続けながら、post-vintageプロジェクトの中で古着に感じる生命的 "何か" を探求をしています。
今回の展示作品「糸口」では、古着に宿る生命的な"何か"を具現化するため、古着の糸をほどき、顔という不変的かつ象徴的なカタチへと昇華させます。
ステートメント「糸口」
かつて毛織工場として人々の暮らしを支えたこの場所で、私は古着をほどき、一つの「顔」を形作ります。
顔は、私たちの感情や記憶に深く結びつく特別な存在です。木の節目や物の配置が偶然にも目や鼻、口を想起させるとき、私たちはそこに恐怖や親しみといった感情を抱きます。それは、顔という形が持つ象徴的な力ゆえでしょう。
私は古着に宿る生命的な「何か」を具現化するため、それらを解き、繋ぎ直し、顔という普遍的かつ象徴的な形へと昇華させます。この平松毛織工場跡地、ノコギリ二にて、新たな命を得てたゆたう古着の姿ーーその一瞬が、古着に宿る生命性を探る糸口になればと願っています。
来場者の皆様から作品をご覧いただいた際、以下のような質問をいただきました。とても良い質問をいただいたのですが、うまく答えられなかったことや、対話の中での気づきを振り返り、その思いをここに残したいと思います。
・作品に使用した古着は写真などで記録しているのか
作品に使った古着は記録せず解体しています。おそらく画像と共に展示したほうが分かりやすいものになりますが、今回の「カタチ=顔」は自身を守るために制作しています。私が古着屋であるという情報だけで十分だと判断して元の古着を記録したり、画像の展示は考えなかったです。
自分を守るためというのは、ここ数年、私は意図的にネット上に顔を出さないことを実践しており、この作品にはその意図が込められています。現代は、ネットに顔を出すことよりも、出さないでいることの方が難しいように感じています。実際にこの行為を続けていくと、自分の意思を伝えても引かれてしまうことが多々あります。好意で行ってくれていることは理解していますが、どこか違和感と、難しさを感じています。
顔を出さない理由は、主に3つあります。一つ目は、シャイだから、これは私にとって大きな要因です。二つ目は、作品の力を試したい という思いからです。作品は作者の意図が尊重されるものだと私は思っています。「糸口」を通して、私の意図を作品として発表することで、作品自体が私を守ってくれるのではないか、また、作品は作者自身でルールを作り出すことのできる存在ではないかと考えました。ネット上に顔を出さない自身の行為が作品となった時、どのような効果があるのか見てみたいのです。作品がどれだけ自立し、どのように人々に影響を与えるのかを試しています。三つ目は、オフラインで会うことの大切さ です。コロナ禍を経て、直接顔を合わせることの価値を改めて実感しました。その感覚を大切にしたいと思っています。オンライン上で簡単に人とつながれる時代だからこそ、実際に会い、空間を共有し、そこに流れる温度、そしてそこに潜む危うさや緊張感を肌で感じること。その瞬間の空気をともにすることで生まれる対話の深さや変化を大切にしたいと考えています。
・作品にする古着を選ぶ際の基準はあるのか
今回は、新たに仕入れることはせず、売れ残りの古着やダメージがあってリサイクル業者へリターンするものの中から選んでいます。「面白い糸だな」「手放すのは惜しいな」と感じるものを直感で選んでいます。
私は古着の仕事を25年近く続けているので、お店に並ぶ服は、仕入れの際に大量の古着の山からほぼ直感で、秒で選んでいます。長年の経験による感覚的な判断が大きく、迷うことはほとんどありません。今回の作品も同じように、直感を頼りに選び、その時々の気持ちや感覚を大切にしながら制作しています。
・ニット以外の素材は使わないのか
ニットを選んでいる理由の一つは、ほどきやすさがあるからです。例えば、Tシャツやブラウスのような素材は繊維が細かく、扱いが難しい部分があります。また、mhPROJECTの空間では、細い糸だとその存在感が負けてしまうと感じています。もし細い糸を使う場合は、別の場所での展示を考えるか、またはおそらく小さな作品として展開することになると思います。
・「表情の香り」をつくるワークショップは、作品とどのような繋がりがあるのか。
なぜ香りが必要なのか。
古着に付着する残り香は、前者の存在を色濃くします。汗の匂いや防虫剤の香りなど、まるで記憶の一部としてそこに存在しているかのようです。また、私の経験上、香りは自分の内面を探る感覚の一つのように感じています。つわりを経験したときに、匂いに対してすごく敏感になりました。体が変化しているときや内面で変化があるとき、香りはその変化を感じる手がかりとなるのではないかと考えています。
今回、大きな顔を制作しており、その顔の中心にある鼻=嗅覚であることも一つの要因です。香りを使うことで、作品に新たな感覚的なレイヤーを加えることができると考えています。ワークショップでは直感で香りを選び、設置したその香りを他者が嗅いだときに前者の記憶や感覚が呼び起こされ、大きな顔の表情も、香りと共に変化するかもしれません。見る人それぞれに異なる解釈が生まれることを期待します。
今年始まってすぐに、偶然、植物療法士の大橋香さんにお会いする機会があり、ワークショップ開催をお願いしました。※ワークショップは定員になりました。
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トークではたくさんの質問や感想をいただき、自身のアートワークを客観的に見ることができ、気づかなかったことにも向き合う貴重な時間となりました。
mhPROJECTの林さんから、「作品はどんどん変わっていっていい、developしていい」とお言葉をいただき、今回、とても自由に制作に取り組むことができています。完成のヴィジョンはありますが、自分でもどのような仕上がりになるのか、その時々で変わるので、正直、とても楽しいです。
rhythm.war*pは、古着をツールにした私の世界観であり、現代社会と私の世界が並行しているその間にあるものが、私にとっての"アート"です。一見、いきなり表現活動を始めたかのように思われるかもしれませんが、実際には古着屋rhythm.war*pのコンセプトを具象化したのがpost-vintageというアートプロジェクトで、カタチにしているだけ。新しい挑戦というよりも、これまでの積み重ねの延長線上にあるものなんです。そのため、スタンスは変わらず、ずっと大切にしてきた直感や感覚を基にしたアプローチを作品に反映させています。その中で、古着が持つ生命的な振る舞いを探求し、作品として表現しています。
言葉で説明しようとすると、どこか不完全に感じるけれど、作品を通してなら伝わるものがある。そう信じて、これからもrhythm.war*pの世界を紡いでいきます。
会期は5/25日曜日まで。愛知県一宮市篭屋4丁目11-3ノコギリ二_mhPROJECTで開催しています。作品は、日々変化しながら、完成に向かっていきます。その過程を、ぜひご覧ください。感想などいただけたら幸いです。お店でお待ちしています。

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